・新字体の中にも、「略字」ではないものが沢山ある

あるいは、新字体の中にも「略字」ではないものが有ります。それも1つや2つではありません。

たとえば「徳」の字は、いわゆる旧字体(康煕字典の字)では旁の「心」の上に横線を一本加えた形になっています。
そして、新字体の「徳」の字は「俗字」とか「略字」だと思われています。
康煕字典体の「徳」
旧字体(康煕字典体)の「徳」。

しかし「徳」の字は伝統的な楷書ではずっと、むしろ常用漢字の字体と同じように書かれることが多かったのです
(というより、日本は戦後の漢字改革で当用漢字を採用したとき、伝統的な形にもどしたのです。)

その具体例を2つ、下に示します。 (写真がデカすぎですね。すいません。汗)


1.九成宮醴泉銘より
九成宮醴泉銘

欧陽詢「九成宮醴泉銘(『きゅうせいきゅうれいせんめい』などと読む)」の一部。
2文字目の「徳」の字に注目。
ちなみに欧陽詢(おうようじゅん)は唐の時代に活躍した非常に有名な書道家で、「初唐の三大家」の一人。
また、この作品は帝の勅命によって欧陽詢が書いたもの。略字を使うとは考えられない。


2.孔子廟堂碑より
孔子廟堂碑

虞世南「孔子廟堂碑(『こうしびょうどうひ』などと読む)」の一部。
2文字目の「徳」の字に注目。
虞世南(ぐせいなん)も、初唐の三大家の一人。
また、この「孔子廟堂碑」は虞世南の最高傑作とされている。これも、略字を使うとは考えられない。


このように常用漢字の「徳」の字は、昔から名品とされている書道作品の中にある字です。
また他の古典の書道作品の中にも、新字体のこの字は山ほどあります。
むしろ旧字体の方が、例が少なめです。

常用漢字の「徳」は、漢和辞典では「俗字」とされている場合があります。
しかし、この字は決して「俗字」や「略字」などではありません。
このような字は、新字体の中にたくさんあります。
(「来」「狭」「麦」「黒」「僧」「青」「真」「緑」「縁」「奥」「者」「恵」「恒」「乗」など)

興味があったら書道字典を引いてみてください。略字だと思われている漢字でも、そうではないものが沢山あることが分かるはずです。
「角川書道字典」などがおすすめです。



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